異国の唄 To Heaven

 私がK−POPに興味を持ったのは少し前のことでした。当時は東京の実家でケーブル・テレビの契約に入っていて、衛星放送のチャンネルを見ることができました。韓国・台湾・香港の歌番組やドラマを見ることのできるチャンネルがあって、私一人で見ていました。中でもK−POPのヒットチャートを紹介する番組が私のお気に入りでした。
 そのきっかけは、通貨危機のために経済的に大きな打撃を被った当時の韓国の事情と関係がありました。その頃の韓国の映画館は観客動員数が減少して、映画監督は新しい映画に取り組むことが予算面でできなくなっていたそうです。そこで、ある映画監督はK−POPのプロモーションビデオ(PV)の映像を作ることになりました。その一つとして、チョ・ソンモさん歌唱"To Heaven"のPVが作られました。
 そのPVのどこが普通のPVと違うかと申しますと、その映像自体が6分間くらいの短い時間の映画(ミニ映画)になっていたことです。その全編で、歌手のチョ・ソンモさんの唄が流れるため、その映像には役者さんのセリフがありません。しかし、ストーリーがあって、チョ・ソンモさんの唄を聴きながら、そのショート・ドラマがわかる仕組みになっています。その映画監督さんいわく、映画館に行くお金がなくても、家でコタツにあたってテレビで映画をみることができるよ、とのことでした。
 従って、このPVを外国人である私が見れば、チョ・ソンモさんの唄うハングルの歌詞がわからなくても、かえってBGMの代わりにそれを聴きながら、映像とストーリーに見入ってしまうわけです。そして、そのストーリーを追いながら、あの役者さんは日本人のだれかに似ているなあと思ったりして楽しんでいました。例えば、主演はあの韓国俳優のイ・ビョンホンさんでしたが、このミニ映画の中で一瞬だけダウンタウン浜田雅功さんに見えてしまうところが、日本人だけに通じる見どころになっています。
 ところで、この"To Heaven"は当時のK−POP年間ヒットチャートの1位に輝いたようです。チョ・ソンモさんの歌唱が素晴しかったことは言うまでもありませんでした。けれども、そのPVがストーリーの追えるミニ映画になっていたことの功績は大きかったと思います。この画期的なミニ映画がどれほど多くの人たちの支持を集めたか、想像に難(かた)くないと思われます。ネット上にも残っているので、そのPVを是非とも鑑賞することをおすすめします。言葉がなくても、ハングルがわからなくても、その映像が小さな映画として楽しめてしまうところに不思議さを感じてしまいます。
 私はこのPVがきっかけで、K−POPは日本語訳がなくても映像的にも音楽的にも楽しめることを知りました。日本語で意味がわからなくても、ハングルでそのまま唄われるK−POPを視聴することによりそのムード、つまり、曲の雰囲気がわかって楽しめることを知りました。まさに異国の唄です。そして、いつまでも私の中では、ハングルで唄われるK−POPは異国の唄のままなのです。