『イオンの全頭検査』から学ぶべきこと

 以前、市場に出回った国産牛肉から暫定基準値を上回る放射線量が検出されるという事件がありました。国および地方自治体の関係機関がお手上げ状態になりそうになったその時から、日本国民の大多数は放射性物質からの自衛手段を必要と感じ始めていました。放射線量の計数器を購入し、現在でも測定を続けている方々が少なくありません。また、民間の企業や店舗では、放射線量の計測器を購入して自主的に牛肉から発する放射線量を測定して、お客さんに牛肉を安心して買ってもらおう食べてもらおうと『懸命』の努力をしました。
 イオンの食品売り場でも『全頭検査』と称して、その時に店頭に並ぶ牛肉の放射線量を計測して、お客さんに安心して買ってもらおうと努力しました。しかし、この行為は結果として悪ふざけのようにとらえられてしまったようでした。国や地方自治体の関係者が真面目に取り組んでいた放射線の問題に対して、BSEで日本中の牛を検査しなければならなくなった『全頭検査』という言葉を使うとは何事だ。真面目に頑張っている人たちに対する冒とくであり、言葉の乱用ではないか、とさえ思われたことでしょう。
 でも、民間企業の側からすれば、商品をお客さんが買わなくなるのは企業の死活問題であり、そのとるべき対策は悪ふざけどころか命がけのはずなのです。つまり、どんな手段を講じても、商品をお客さんに買ってもらわなくてはならなかったわけで、悪ふざけや洒落て遊んでいたわけでは決してありません。生き残りを賭けた民間企業にそんなヒマや余裕など、本当はありません。その点に誤解があったと言えます。
 それに、現代の日本人は、昔の日本人と違ってかなりアメリカナイズされてきたと言えます。上官が敵に倒されたからと言って、右往左往するような昔の日本兵とは違うのです。従うべき上官が敵に倒されても、自ら判断して生き延びるために戦うのが、今の日本人であり、今の日本の民間企業なのです。
 私は、『イオンの全頭検査』が、アメリカ人の視点から見たらどう映るかを想像してみました。たとえそれがアメリカ政府の高官であっても、日本の民間企業のこの行為全体をリーズナブル(合理的)であると見なしたはずです。お客さんの口に、放射性物質に汚染された牛肉が入らないためにとられた、もっとも効率的で合理的な方法として賞賛したことでしょう。
 ところで、私は、原発事故の放射性物質よりも、BSEの方が恐いと考えています。(以下は、そんな私が想像したフィクションです。)アメリカが牛肉の輸入規制撤廃を求めているのならば、たとえ国が日本国民を守れなくても、日本国民自身が黙っていないと考えています。線量計よりも、これからは簡易BSE検出器の方が売れると思いますから、その開発と普及が待たれます。そして、日本の国民や民間企業の多くが、自衛手段として牛肉がBSEにかかっているかをチェックするようになると思います。その簡易チェックに引っかかった牛肉は、即座に国や地方自治体に通報されて精密なチェックが行われると良いと思います。もちろん、安い牛肉には検査にかかった料金が販売時に上乗せされます。
 そうなれば、「あなたの国民は何て侮辱的なことをするのだ。」というアメリカからの問いに日本はこう答えることができるようになることでしょう。「あなたたちが育ててくれた私たち日本人は、福島原発の事故で危機的状況に対処する方法を学んだのです。」と。