私の本業 まさかの長雨で…

 私は6年位前に、この地で就農しました。この上田という所の夏は、日本でありながら日本らしくない。太陽の日照時間は長く、雨の降水量が少ない。地中海性気候のような感じなのです。梅雨があっても短くて、空気がじめじめした感じがほとんどない。ここ6年間、夏はずっとそうでした。上田市の南向きの斜面がある地区に、某ワイン会社が葡萄畑を作る計画があると噂されるくらい、夏の気候がカラッと乾燥して過ごし易い場所なのです。
 ところが、今年は違いました。異常気象が続いている影響でしょうか、6月7月の雨の降水量が異常に多いのです。例年でしたら普通に歩ける土の道が、雨が降っていてもいなくてもぬかるんでいて歩きにくくなっています。田んぼの水を落として地面を乾燥させようとしても、後から後から雨が降ってきて、池になってしまって水が引きません。稲の生育が遅れていて背丈が低いので、まだ倒れる心配はないのですが、これだけ頻繁に雨が降ると草取りなどの作業がやりづらく、やってもほとんど効果がないようです。
 この長雨で被害が出た地域もあるようですが、私のいる所ではそういった話はありません。それどころか、この長雨のせいで、日照時間がほとんどないにもかかわらず、気温がそれほど下がらないため、きゅうりがどんどん大きくなって沢山採れてきたので、その収穫と出荷で毎日が忙しくなってしまいました。
 仕事が忙しくていいじゃないかと、他人は言うかもしれませんが、そう単純にはいかないのが現実です。トマトもどんどん赤くなって、採りきらないと無駄になってしまうのに、人手が間に合わない。収穫と箱詰め(袋詰め)と出荷の作業がかなりあるにもかかわらず、アルバイトの人たちの都合によって十分な助力が得られません。50代のおばあさんは、一週間に2、3時間しか来てもらえないので、ほとんど助けになりません。若いお兄ちゃんはもっと最悪で、奥さんの出産前後からこちらに手伝いに来れなくなってしまいました。もう一人、アルバイトに雇った土日だけ2時間ずつ働きに来る、国立大の工学部を卒業したのに就職浪人になった若いお兄ちゃんを使っていますが、仕事の飲み込みが余りに悪くて、納期の限られた仕事には危なくて使えません。期限のある仕事に直に影響を与えない、草取りなどの栽培管理作業にまわってもらっています。
 きゅうりとトマトの収穫と出荷という大切な時期に、今年も人不足で泣きを見てしまいそうです。しかし、私は一人でもあきらめません。人の手配に今年も失敗していることは事実として、それを承知でやっているからです。収穫と出荷の作業に忙しくて、トマトの木に農薬をかけるヒマもない時は、無農薬野菜になっていいや、と前向きに考えます。また、アルバイトの人たちが手伝いに来なければ、それだけ人件費がかかっていないわけですから、売る作物にコストがかからずに安く売れていいや、と都合よく考えます。
 もともと日本の農業は、家族労働に頼って進められてきました。それが崩れてしまった現代では、家族労働ではなく、アルバイトなどで他人を雇って作業を進めていくべきだと、私は考えてきました。しかし、地元のきゅうり農家さんを観察してみると、老夫婦二人で私一人の3倍もの量のきゅうりをJAに出荷している世帯が何軒かあることを知りました。家族労働を拒んで馬鹿にしていた私が、皮肉にも、家族労働にはかなわないと泣きを見る結果にしまったわけです。
 現状よりもましな方法を、もう少し私も考えなくてはいけないのかな、とは思います。例えば、一番忙しい時期に2、3人交代でも手伝ってくれる人たちがいるだけで状況はかなりよくなります。今までの自分一人でやるやり方にも軌道修正が必要なのだと思います。