架空の人物たち(その1) 一ノ瀬未希

 偏見と道徳観念にとらわれて自分らしく生きられなかった過去を後悔している。そんな自分をみじめに思った。そんな僕だったから、未希ちゃんに会えて本当によかった。
                          (誰だかわからない人のコメント)
 「(大人の言うとおりに)そうするしかないのもわかってるけど、でも、そんなに簡単にわかっちゃっていいのかな」と未希ちゃんは、『14才の母』のドラマの中で言っています。感情的に大人の言うことに逆らうならば、それはただの14歳の反抗期にすぎないでしょう。が、未希ちゃんは、大人の言うことに盲従せず、ここで一人で立ち止まって自分の頭で考えているのです。どうしたら自分らしく生きられるのか、周りの人たちと人間的に関わりながら自分の気持ちに正直に生きられないものかと考えるのです。
 それに比べたら、誰だかわからない人のコメントは情けない。おそらく人生の大きな勝負(負けたら大変なことになるような勝負)を避けて、安全な場所ばかり選んで世渡りをしてきた人なのでしょう。未希ちゃんみたいな子を偏見と道徳観念で見くだし、頭ごなしに否定して、感情的に避けようとした大人だったに違いありません。でも、それゆえに彼は自分らしく人間らしく生きられなくて、その過去を後悔ばかりしている。ある意味で人生の負け犬であり、何かのきっかけで自分のみじめさに気がついたのでしょう。
 どんな大人でも、自分自身が不幸になった時(例えば、会社からリストラされた時や大切な人が亡くなった時など)に、みじめな自分自身に気づきそれを認めるまでには、大きな勇気を必要とします。後悔だらけの過去の人生(例えば、親たちに猛反対されて好きな人と結ばれなかった場合など)から脱却するためにも、その不幸な過去と向き合う勇気が必要です。
 そうした勇気を得るために、人は何をするべきなのか。その答えを未希ちゃんは教えてくれます。他人の言うことに考えもなく従うのではなく、自分のことは自分でしっかり考える。それから、まず自分自身が納得し、他人にもわかってもらう。この努力こそが、自分らしく、人間らしく生きていくために必要なのです。
 現実の世界でそれをやっていくのは並大抵のことではないです。そこで、架空の人物たちに手本を見せてもらいたいと願うのです。誰だかわからない人も、『14才の母』のドラマを見て、未希ちゃんの中に、こんな素晴しいキラキラしたものがあることを知りました。そして、今までの彼自身のダメだった人生から救われて、この尊敬すべき14才の女の子を好きになったのだと思います。