私の本業 知る人の少ない農業農村整備事業

 いろいろと書きたいネタはあるのですが、×××ミクスの影響でしょうか、それとも、××所得倍増というスローガンにまわりが振り回され、踊らされているせいでしょうか、私の周辺が忙(せわ)しなくなり、まとまった時間が本業のために奪われてしまいがちなのが残念なところです。冷静に物事を考えることが、いかに大切かということを、私は一人ひそかに痛感しています。
 私は、これまでの日本の農業農村整備事業がうまくいっていないことをテレビなどでしばしば報道されていることに少々疑問があります。都会に住む大多数の人たちに誤解されている部分もあるのではないか、と思えるのです。確かに、無駄な公共事業の延長に見えるものや、農業農村整備事業に関係のないことに日本国民の税金が使われているように感じられるものが無いとは言えません。テレビを見た私も、そのことは認めます。それはそれで不当なことが行われていることを、私も理解しています。
 日本の有力な専門家の方によると、「(ウルグアイラウンド農業合意関連国内対策事業費の)その殆どは色々な建物や施設に使われたが、多くは朽ち果てているか使っていない。」ということになっています。ところが、私は、現在生活している長野県上田市の地元において、『その殆ど』に当てはまらない実例を年間を通じて見ています。そのことを以下にどういうことなのか、簡単ですが説明したいと思います。
 私の居る地元では、ウルグアイラウンド農業合意関連国内対策事業費等によって、JA信州うえだの100人の従業員が働く農産物流通センターと営農センターとそれとつながる舗装道路と、多数の田畑のど真ん中を真っ直ぐに走る舗装道路(広い道幅の農道?)が作られました。その道路全体の中心位置に『農林水産省補助事業』というタイトルのスチール製の立て札が立っています。私は、農産物をその流通センターの中にある集荷場へ軽トラで運搬する時はいつも、その立て札の横を通ります。そのスチール製の立て札には、『施設の概要』(つまり、広域農道を設置した目的)として「農産物の広域的な集出荷体制の確立により農業振興を図る。」と記されています。
 また、その立て札の近くに、営農センターを通じて地主さんから私が三年契約で借りている田んぼがあります。従って、私もその道を利用していますが、地元の営農センターや農業機械組合で借りた田植え機、稲刈り機(バインダー)や収穫機(ハーベスター)、大小のトラクターや耕運機、もしくは、コンバインなども皆、この多くの田畑を突っ切る舗装道路を自走します。軽トラや大型トラックに、それらの農業機械を載せて移動する人もいます。そのような行き来に便利な道路がもし、ウルグアイラウンド農業合意関連国内対策事業費で作られていなかったら、田畑の集積化を目的として前もって区画整理されていた農地は、農業の機械化についていけなかったことでしょう。大型の農業機械が通れる道路が無いからといって、他人の耕作地にそれを乗り入れて突っ切ることはできないからです。
 もちろんその道路は、農家専用だったり、農家優先だったりはしません。普通の乗用車や、物資運搬用の大型・中型トラックも、同様に無料で通れます。そのため、その道路が一般道路と同じに見られてしまっています。すなわち、農業農村整備事業に関係なく、一般市民のために作られた舗装道路と同じと見なされているのです。そのために、ウルグアイラウンド農業合意関連国内対策事業費の使い道がおかしいと、地元を知らない都会の人たちは思うのです。
 年々減りつつある農業従事者が、その道を独占して通行する理由はありません。通常は、みんなの使う道路でいいと、私も思います。でも、私がその道路上で農業機械を自走させる時、片側の側溝に落ちないように注意しながら、もう片側をビュンビュン飛ばして何台もいろんな車が通り過ぎていくのは、ちょっと恐怖をおぼえます。そんな時、私は肩身が狭い思いをしても、何とか普通車やトラックとぶつからないように注意しています。
 ところで、JAの農産物物流センターなどにある集荷場が耕作地の近くにあることは、意外と重要です。特に都会から来た新規就農者は、どうしてもドリームやムードで居住地や耕作地を選んでしまうために、農産物を生産した後のことに頭が回らないことが多いのです。すなわち、農産物をせっかく収穫しても、それを出荷する集荷所が遠くにあったり、行きづらい場所(例えば、坂道を上がりきった所)にあったりすると、自ら出荷に行けません。また、町の卸し生鮮市場では一般の農業従事者はなかなか簡単には取引できません。農産物直売所とでも、それなりの手続きが必要です。新規で農業に従事したい人は、是非とも生産した農産物の販路を考えてほしいと思います。私は、農業大学校で研修中に、同期の研修生から「長野県の中で、長野市松本市飯田市の近くではなくて、何でお前はそれほど魅力の無い場所を選んだのか。」とひどいことを言われました。その人は、後に私が地元で借りているビニールハウスを訪れて、農産物を持って行く場所が近くにあることを知って、やっと私の意図を理解してくれました。
 私の地元では、最近、新しい農業従事者を見かけることが少し増えました。けれども、世の中では、依然として、都市部に人が集中して、農家と農村は見捨てられてきた、という一般的なイメージが強いようです。はたして、そういったイメージに先入観が入っていないのか、民間企業の経営者さんや、お役人さんや政治家さんがどこまで正しくその実態を把握していらっしゃるのか、もしかしたら、何か変な誤解をされていらっしゃるのではないか等々、そうしたことも見守っていきたいと『今の私』は考えています。