季節と地域限定の益鳥たち

 一般に、益鳥とか天敵とか言うと、完全無欠の正義の味方のイメージですが、現実的にはそうとも言えないようです。もちろん、害鳥や害獣とかとは、真逆のイメージではありますが…。そもそも、私たち人類から観て、有益か有害かで決めつけられているイメージなのです。だから、自然界には、絶対的あるいは決定的な益鳥も害鳥も天敵も害獣も存在しません。

 そうだとして一番困るのは、自らの食いぶち(つまり、食糧)を確保できないと、食糧危機だと大騒ぎする、私たち人類です。その食糧危機から救ってくれる益鳥や天敵に頭が上がらないのは、私も同じです。

 そんなわけで、季節および地域限定的な益鳥として、地元のカラスくんたちを紹介いたしましょう。夏から秋にかけて地元の田んぼのほとんどでは、バッタや稲子(いなご)が繁殖してぴょんぴょん跳(と)びはねているのが普通です。しかし、地元の人たちは、それらの稲への食害を恐れて、農薬(殺虫剤)を散布したりはしません。実を言いますと、この時期このタイミングで農薬を散布するのは、該当する田んぼに余程の致命的な障害が発生していることを意味します。私は、この地元で10数年間、稲を作ってきましたが、そのような事例を目撃したことがありません。

 田んぼで繁殖して増えたバッタや稲子(いなご)はどうなってしまうのかと申しますと、稲刈りの前後に地元で益鳥と化したカラスの、その数十羽の群れに食べられてしまいます。これは、その現場を見たことのない都会の人々(かつて私もその一人でしたが…)にとっては信じがたいことだと思います。ハトやスズメは、米粒を食べますが、それらの昆虫は食べません。しかし、カラスは、それらの昆虫が栄養満点であることを知っています。稲刈り前は、田んぼの端っこに何羽も並んで、それらが稲から跳びはねて出てくるのを待っていますし、稲刈り後は、地面に横たわった稲の束から、バッタや稲子(いなご)あるいは小さなカエルだけを上手(じょうず)についばんでいます。私は、稲刈り数日後に、はぜかけ(はざかけ)をしますが、その頃には田んぼに沢山生息していたそれらは、カラスたちの食欲の犠牲となって、壊滅状態となります。毎年そうなのです。また、そのカラスたちは、もみや米粒には興味がないらしく、稲の食害には関わっていません。以上それが、私の地元のカラスたちが、季節限定かつ地域限定の益鳥たる所以(ゆえん)です。

 あと、蛇足ながら一言つけ加えておきましょう。先日NHK総合テレビを観ている時に思ったのですが(というよりも、ほとんど私の妄想ですが)、毎日江戸川の生ごみを漁(あさ)っていると言われている『江戸川の黒い鳥』のキョエちゃんに、是非この時期にグルメな昆虫やカエルを食べに来てほしいな、と内心私は思っています。ただし、そのようなグルメな食材にありつけるためには、まず、地元のカラスくんたちと仲良くして、その仲間にならないと危険かもしれませんが…。とにかく、自然界との共生は、その自然界の一つ一つの具体的な理解から始まるものなのかもしれません。