若者向けに架空の記者会見を考えてみる

 内容が事後承認的だとか、後出しジャンケンだとか、いろいろご批判はあるとは思いますが、もしも私が然るべき責任者で、若い世代に向けて記者会見などで感染症予防対策を呼びかける立場にあったとしたならば、どのような発言をするだろうかと考えてみました。専門家でも、医療従事者でも、行政担当者でもない私が、こんなことを述べたとしても少しも説得力がないのは明らかです。それは当然のこととして、無責任かもしれませんが、私だったらどうするかという架空の話をしたいと思います。
 「若い皆さんは、私らのような年配者と比べて、ずっと肺活量があって、呼吸量が倍くらいはあります。したがって、皆さんのほうが、私らよりも、ウィルスを吸い込む力が強いので、PCR検査にひっかかりやすい、すなわち、無症状でも感染者とみなされやすいというデメリットがあります。しかし、若い皆さんのほうが、私ら年配者よりも、吸い込んだウィルスを吐き出す力が強いので、最悪発熱の軽症およびその後遺症までで、重症化や重篤化まではいかないメリットがあるのかもしれません。」
 「このようなメリットやデメリットがあることは、若い皆さんにとっては、ある意味どうしようもないことだということを理解してください。私らのような年配者は、呼吸量が皆さんよりも劣ってしまっていて、体調も弱っています。けれども、だからと言って、感染症にかからないという保障はありません。このような、どうしようもないことをいちいち私が述べているのは、『どうしようもないから、考えてもムダだ。』と思ってもらいたくないからです。どうしようもないけれども、それを認めて意識して、そのことからいろいろ考えてみる、つまり、そこから思索を進めて発展させることができれば、今までにない解決法や発想法が出てくるものです。」
 「私ら年配者は、若い皆さんの意識が甘いことを、これまでは幾たびとなく指摘してきました。しかし、そのような精神論と批判だけで予防対策ができるほど、感染症は甘くありません。科学者や専門家を神とせよとは申しませんが、世間の柵(しがらみ)にまだまだどっぷり浸(つ)かっていない若い皆さんにお願いしたいのは、少しでも論理的かつ科学的に物事を見て判断してほしいということです。若い皆さんの頭でよく考えて、適切な行動ができれば、世間の不当な評価は必ずひっくり返ります。それどころか、皆さんが真剣に考えた(疑問や質問ではなくて)提案が、世間をアッと言わせることだって、今ならできます。まさに今なのです。だから、若い皆さんの考えや立場が十分に盛り込まれた提案を、私らにぶつけて下さい。私らはあらゆる角度からそれらを精査および検証して、害の少ない有益なものは必ず採用して、世の中に普及させましょう。」
 ここまで言ってしまうと、ペテン師の扱いをされてしまうかもしれません。特に、科学者や専門家さんからすれば、何て無茶苦茶な発言だとひどく腹を立てられるかもしれません。しかし、どんなに高い理想があっても、それを第三者に伝えて理解してもらえなかったならば、宝の持ち腐れなのだと思います。本当のことを申しますと『科学の威信』などというものは、世間では通用しません。なぜならば、世間は有益なものしか認めようとしないからです。この新型コロナウィルスの世界的な流行がなかったならば、科学者が人知れず地道な努力をしていることなど、相変わらず誰も関心を持ってくれなかったといっても、過言ではなかったことでしょう。
 一方、多くの若者に理解を求めたり、彼らを説得することは、容易なことではありません。大人がしばしは彼らに揚げ足を取られることは、珍しいことではありません。しかし、それを恐れて、彼らからの攻撃をかわして逃げてばかりいては、いずれ人間的な信用とか人間関係を失います。
 若者に向けてメッセージを発する時に考えなくてはいけないことは、彼らに何を考えさせたらいいのか、ということです。とりあえず世の中に権威のある組織を意識させることは必要なのかもしれませんが、その先の彼らに自主性がないと、結局お上(かみ)に頼らないと何にもできない、自己管理のできない人間になってしまうことは明らかです。だからと言って、何でも自分でやれと、ということでもありません。自分一人で手におえなくなったならば、他者と協力して、その手を貸してもらう手もあるのです。いずれにしても、結局自らがそうした手段を考え判断する力がないと何もできません。そうしたことを若い彼らに考えさせることが、今の大人のするべきことなのかもしれません。