場あたり的でない日本のIT問題

 私は、20代の頃にコンピュータプログラマをやっていました。だから、あえて言わせていただきます。私のかつての職場の先輩たちは、OCRやFAXなどのOA機器のプログラムを開発していました。しかるに昨今では、OCRやFAXがマイクロコンピュータで動いていることも、それが日本人の先人たちの努力によって組まれたコンピュータプログラムで動いていることも、全然知らない輩(やから)が増えているようなのです。FAXなど、せいぜい欧米の電子部品や電子回路を電気メーカーがコピーして市販していたくらいにしか考えていないんじゃないかと思います。
 だけれども、もう少しよく考えて下さい。人工衛星打ち上げロケットの制御装置もそうですけれども、かつては、外国からコンピュータ関連の高度で先進的な技術をそう簡単に入手したりコピーしたりすることはできませんでした。今でもそうであることは、そうした技術を盗んで中国が米国からあれほど憎まれている現状を見てみれば明らかです。このコロナ禍で保健所などの行政機関がFAXなんか使っているなんて時代遅れだ、とおっしゃっている方々に私が申し上げたいのは、以下のようなことです。「あなたがたは、FAXなどの電子機器がどういうプログラムで動いているのか知っていますか。」あるいは「FAXなどの電子機器を動作させるコンピュータプログラムを自作できますか。」ということです。おそらくボーっと生きてきたあなた方には、それさえ不可能でお手上げであることは言うまでもないことでしょう。
 現在のオンライン技術は、インターネットという世界共通の通信網(WWW)の上に成り立っています。もし仮に、インターネットという通信インフラを取り去ったならば、全く成り立たないコンピュータのIT技術です。残念なことに、そのインターネットは日本人が発明したものではなく、純国産の技術でもありません。いわば、外国から借りてきて使うことを許されているIT技術です。したがって、それ自身を日本人ファーストに改変したり、その利権を独占することは、基本的にはできません。そう考えてみると、『日本のIT化の遅れ』ということに関する最近の議論というものは、本質的には、少々場あたり的な感じがいたします。他者の技術に追従するかぎり、『技術的な遅れ』というものは宿命であり、仕方がないことだと言えましょう。でも、悲観する必要はありません。もしも、その技術で他者に先んずれば、他者からのバッシングあるいは制裁が必ず待ち構えているからです。
 ところで、私は、最近になって次のようなこと気がつきました。「日本の行政をオンライン化すること」と「携帯やスマホの通信料金を値下げさせること」には関連があるということです。(私は、仕事上もっぱら『手でワーク』ですが)今やテレワークの社会的普及などにより、オンラインの使用コストは、社会的に増加の一途をたどっていると言えましょう。国民の税金を財源とする行政機関にとってもオンライン化が進めば、通信料金のコストが未来永劫かさむことを看過できなくなります。そこで、これまで外国と比較して高いと見られてきた日本の携帯・スマホの通信料金を下げておく必要があるというわけです。ここで、「日本の行政サービスのIT化やオンライン化が遅れている!」と嘆いて怒った多くの日本国民の方々に、一つ真実らしきことをお伝えいたしましょう。「お役人さんの頭が固かったり、職務上の怠慢がIT化の遅れにつながったのではなさそうです。その本当の原因は、長い間ずっと携帯・スマホなどの通信料金が安くなかったために、オンライン化しようにもコスパの問題があって手がつけられなかったことにありそうです。」と。