足元の反省

 前回の私のブログ記事で「不要な外出は控える。(Stay home)」という感染症対策が社会的対策と個人的対策の二つの意味があると述べました。後者については、「個人が外に出る時に問題があるというよりも、外出することは必ず帰宅しなければならず、そのたんびに外から病原体を家の中に持ち帰ってしまうことが問題で、その可能性をできるだけ減らすことが大変だから、外出しないで家にいたほうがよい。」というふうに私は述べるつもりでした。
 ただし、「家にいる」とはいっても、家に特別にバリヤーみたいなものがあるからというわけでもなさそうです。窓を開けて空気を入れ替えるということも、家の中が密室にならないようにするために必要だというわけです。やはり一番の目的は、病原体からかけられる、呼吸器官の負担を少しでも軽減することが狙いと言えましょう。
 あと、これはあくまでも私の意見ですが、自宅などの家にいれば、急に体調が悪くなった場合に、床に臥(ふ)すなどの方法で、体を安静な状態に保つということがすぐにできると思います。家の外にいると、つい周りが気になってそれができない。具合が悪いと気がついても、周囲を気づかって我慢してしまいます。様々な手持ちの家財道具などを利用することもできず、ほとんど何も対処できない。先日、私の実家がある東京都足立区の路上で倒れて結局助からなかった60代の男性にしても、(家にいても結果は同じだったという考えは否定できませんが)家にいたら何か早目に対処できたかもしれません。(あくまでも可能性の上での話ですが。)
 これは、今になって自慢しても何にもならないことですが、今から1か月前に東京の実家の私の母に電話をした時に、地理的にどこが危ないかを示して、意味の無い移動をしないように頼んでみました。母にとっての故郷である長野県は犯人捜しで大変なのだと伝えて、現在住み慣れた場所にいることがご自身にとってベストであるとわかってもらいました。80代の高齢になると、少しでも生活場所を移動することが体の負担になることは、これまでも母がよく分かっていらっしゃることでした。その時に、私は「東京の足立区では、どこが心配か」ということを電話で伝えたのですが、今回の60代の男性の死亡で偶然にも見事的中してしまいました。(再度申しますが、私自身が命を奪われたならば、そんな的中は自慢にも何にもならなくなってしまうことなのですが。)
 話を元に戻しましょう。私がそのような『病原体の家への持ち帰り』ということに気づいた背景には、過去に大きな失敗をしたことがあったからです。今から10数年前、私は今の地元で就農をして毎日忙しい作業に追われていました。そして、毎日1Kの間取りの家に帰って、玄関で作業靴を脱いで、流しと風呂場(ユニットバス)の間の狭い通路の先の、奥の6畳間へ入ります。その間に、作業着や靴下を脱いで、普段着あるいは寝間着に着替えます。5月や6月になると、仕事が忙しくなって、直接、作業着から寝間着に着替えて寝てしまうことが2、3日間続きました。
 そのようにして3日間ほど過ぎた夜に、私は、布団の中の足元がねばねばしていると感じました。おかしいなと思って、次の朝になって布団をひっぺがしてみました。すると、足元の白い敷布と布団カバーが、黒ずんだり黄ばんだりして白いカビも生えていました。私はびっくりして、その敷布と布団カバーを洗濯機にかけて洗いました。普通の粉末洗剤を入れて洗った結果、黒ずみと黄ばみと白カビが落ちて、やっと私はほっとしました。
 それから、どうしてそんなことになったのかを反省してみました。東京に生まれ育って40年余り都会で生活をしていた私には、こうした経験をしたことがありませんでした。東京の実家が、町工場で自営業をやっていましたが、お風呂に入るのは3日間に一度でした。また、20代から20年間近く私はサラリーマンでしたが、社内勤務で忙しい時は1週間も風呂に入れない時もありました。「垢(あか)で人間は死ぬもんじゃないから。」と上司に言われて、仕事をさせられていました。
 ところが、仕事が変わって長野県で一人で就農した当時は、土からの見えないものに対して私は無警戒になっていました。泥などの汚れが体や手足に付着していなければ、何も問題がないと思っていたのです。生活上の衛生に対する意識が低かったことを、40代を過ぎて一人で生活するようになってから、改めて思い知ることとなりました。屋外で履(は)く靴下は、帰宅したらすぐに洗濯機へ入れていましたが、それでも十分ではありませんでした。すなわち、その足にゴム長靴や作業靴を履いていても、土からの何らかの微生物が、私の(足の裏や甲や足首などの)足元の皮膚に付着して、つまり、感染していたのです。「自然をなめてたなあ。」と私は反省しました。
 再び敷布や布団カバーが黒ずんだり黄ばんだり白いカビが生えないようにするために、私は次のような解決法を考えつきました。その日の作業が終わって帰宅したならば、玄関で作業靴を脱いで、さらに靴下と作業着と下着を脱いで、すぐに風呂場(ユニットバス)に入ります。頭からシャワーを浴びて、全身に石鹸を付けたら、ゴシゴシ洗わずにまたシャワーで洗い流します。そんな簡単なことを毎日習慣にするだけで、寝ていて足がねばねばするなどということはなくなりました。ついでに、風邪で体がだるくなるということも、以前よりも少なくなりました。私にとって、この方法は一定の効果があったように思えました。
 「燈台もと暗し」としばしば言われるように、誰でも手近な事情がかえってわかりにくいということがあるものです。私のように足元に注意を怠(おこた)って、大きな反省を後でしなければならない、という愚かなことだって珍しくはありません。そのようなことは、決して他人事(ひとごと)ではないのかもしれません。

 実を言いますと、先日の4月19日(日)に地元でちょっと怖ろしいことを経験しまして、その後の様子を経過観察していました。地元の街中で、左手からいきなり正体不明のおばあさんが現れて至近距離で「ゴホンッ」とやられてしまいました。そのおばあさんはマスクをしておらず、私の下半身は飛沫を浴びてしまいました。ズボンを脱いだり車で帰るためには、手を使わなくてはならず、家の外にいるとすぐに対処はできませんでした。帰宅して手を洗ったものの、もしかしたらそれまでに飛沫感染接触感染、および、両者の感染のミックスで結局、呼吸器官に病原体が運ばれてしまった可能性があります。
 しかし、それでもその私にとって見知らぬおばあさんが感染経路と決められない事実がありました。その日に、生活必需品を買おうとしてあるお店に入る前に、気分が少しだるくなりました。このだるさは何だろうと思いました。おそらく、人通りの多い場所はそこで「ゴホンッ」とやってしまう人が多いのかな、と感じました。屋外とはいえ、そういう場所でお店への入場制限があって並び続けなければならないとしたら、ちょっと心配に思えました。家に帰って落ち着いて考えてみたのですが、「もしそうなったら、別の機会にお店を利用することにして、いさぎよく決断してその場は撤退しよう。」と考えました。
 私は、一人暮らしのため、食べ物のやりくりは当然自分一人でやっています。冷蔵庫は小さいのですが、お米などの自給の部分があるので、食料品を買いに行く機会を減らすことができます。私のアイデアをそこに加味して「1週間に一回」の買い物を何とかやりくりしようと考えています。東京都の小池都知事が「3日に一回」とおっしゃられているのは、都会では妥当な発言だと思います。
 その日の夜、やっぱり体調がおかしいと思ったので、血圧計で測定したところ、やっぱり心拍数が通常よりも10~20高かったので警戒することになりました。せきなどの風邪症状もなく、熱も出ていないし、だるさも感じていないのに、何か変な感じがしました。早目に布団にもぐって様子を見ていました。すると、いつしか眠ってしまったのですが、いつもはかかない大量の寝汗をかいていることに気がつきました。4月2日の夜よりひどい寝汗の状態でした。用心のため、のど飴をなめていたのですが、胃の中で「グルルルル~」とか「ゴボッ」とか「ギャー」とかの異常な音が繰り返し発せられていました。胃腸が痛むことはなく、その時は腹を下している様子もなかったので、それは何かの微生物が悲鳴を上げているような感じでした。(これは、あくまでも私が想像したイメージであって、「微生物が本当に悲鳴をあげている」などという事実はなかったのかもしれません。)本当に滝が流れるような寝汗をかいたので、夜中に一回全部下着を着替えました。次の日の朝には、寝汗もおさまっていて、心拍数も下がって落ち着いていました。
 今回のことで、二つのことが身をもってわかりました。食べ物を外に買いに行く時は、どこへいつ買いに行ってはいけないかが少しわかった気がしました。もう一つは、私の場合、発熱症状や風邪症状などが出る前に、心拍数の上昇があるということです。実は、私の場合は、ここ数年の地元の定期検診で、血中のヘモグロビン量(赤血球数)が標準より下回っていると血液検査から診断されていました。そこで、かかりつけのお医者さんから、去年の12月に大腸の潜血検査を、今年の1月に胃カメラ検査を受けるよう指示されて、私は渋々それらの検査を受けました。その結果、胃腸に出血や炎症が見つからないということがわかりました。(それが、私自身の胃腸などの消化器官への過信にならないといいとは思いますが…。)
 その貧血の度合いが、血中酸素量と関連して心拍数が上がりやすくなっているとみることもできると思いました。何らかの病原体による感染症のために肺の機能が少しでも落ちると、息苦しさや発熱などの自覚症状がなくても、それらの症状が現れる前に、体が異常を敏感に察してしまうようなのです。したがって、私がとるべき対策は、作業中に心拍数が異常に上がったら、半日以内に(できればなるべく早く)作業を切り上げて、体を洗い、食事による栄養補給を短時間にして、布団にもぐりこんで、なるべく早めに体を安静にする、ということにしました。(もちろん、心拍数が下がったからといって、それを絶対的な安心材料にすることは間違っています。貧血症状に気をつけなければいけないことを、同時に私は体感しています。)
 世の中では、たかが風邪症状とか、たかが10万円と考える人がまだいるかもしれません。けれども、今回は「風邪は他人に移せば治る。」とか「10万円ぽっきりもらったところでどうにもならない。」とか考えないことです。決定的に効く薬とか免疫とかがない状態で感染症を甘く見たら命取りです。自身の命を取られたならば、その10万円でさえ受け取れないし、受け取る意味がなくなってしまうようです。何事も用心して、私自身の足元をよくよく注意して見ておくことが大切なようです。