怒号や罵声があったものの…

 私は、テレビのニュースや情報番組で、東京駅100周年記念Suicaのプレミアム販売にまつわる騒動を知るまで、そのSuicaの持つ価値を知りませんでした。当然、それを欲しいなどと、これまでは思ったこともありませんでした。
 プレミアムな商品だったゆえに、それが手に入らなかったことに人々が怒りを表して、現場は怒号や罵声が飛び交っていたと報道されていました。どうにかならなかったのか、という意図にもとづき、イベント専門家の意見がテレビでは紹介されていました。結局、Suicaを増刷して、今回手に入らなかった人たちにも行き渡るようにするということになって、それじゃあプレミアムな価値はどうなってしまうのだろうという疑問が発生しました。
 それとは別に、私の経験として、今年の6月にこんなことがありました。近所の小さな農産物直売所にキュウリの袋詰めを10袋ばかり作って持って行きました。すると、3、4人のオバサンがキュウリの来るのを待っていました。それで一人で3、4袋まとめて買って行きました。すると、4人目のオバサンには、キュウリの袋が残っていませんでした。そのオバサンは、「せっかく、川むこう(千曲川の向こう)から、はるばる来て、1時間も待たされて、キュウリを買えないなんて、なさけない。」と、泣き泣き言い出しました。すると、最初に買ったオバサンの一人が、「私が買ったキュウリの袋を一つあげるよ。」と言いました。
 その後どうなったかは、私は知りません。私が憶えていることは、以上のことだけです。しかし、このことがあってから、私は、たとえキュウリが売れない日があったとしても、その直売所にキュウリを持って行くようになりました。
 なぜならば、それまでの私は、それとは逆の事情を信じ込まされていたからです。その小さな農産物直売所は、地元の人しか利用者がいない、と生産者仲間から聞かされていました。その小さな直売所は、限られた人数しか利用する人がいないから、お客さんが増えないし売り上げが伸びないのだ、と地元の生産者たちは言って、彼ら自身がこの直売所の会員をやめていきました。
 しかも、買い物に来るお客さんは、朝に店が開いて30分を過ぎると、誰も来なくなる。その後にお店に出した農産物は、必ず売れ残る。直売所の近辺に住んでいる人しか、買い物に来ないからだと、私は聞かされていました。
 私は、キュウリのJAへの出荷をたった一人でやらなければならない事情のため、直売所へキュウリを持っていくのが優先順位で後回しになってしまい、どうしても遅れてしまいます。直売所の近辺に住んでいる消費者が買いに来るのとは、どうしてもすれ違いになってしまいます。それでも、キュウリの袋詰めを持っていけば、キュウリが欲しいというお客さんがいることが過去に何度かありました。それで、キュウリをその直売所に持って行った矢先に、先に述べたようなことに出くわした、というわけです。つまり、こんな小さな農産物直売所で、毎年、その運営をやめるかやめないかと言い争っている場所にも、この地域の外から来るお客さんがいるということなのです。そうしたお客さんを見逃してしまうようでは、本当にこの農産物直売所には未来がないと言えると思いました。
 プレミアムSuicaの話に戻りますが、JRはイベントに失敗して怒号や罵声をあびせられたものの、プレミアムSuicaを増刷することで、当日買いに来た大勢のお客さんの心を大切にしたのだと思います。ビジネスとして、商売として、決して失敗してはいないと思います。できれば、この年末年始の一ヶ月間くらい、プレミアムSuicaの増刷と発売を続けて、徹夜組や転売屋のとった行為が無効になるくらい、大儲けしてもらいたいものです。Suicaをただのカードだと思っていた私でさえも、買いたいくらいです。期待しています。